第186回


クラウドにファイルを置くのは危ないのではないか。社内でそう問われたとき、どう答えているでしょうか。感覚で「大丈夫です」と返すだけでは、経営層の納得は得にくいものです。
実のところ、Googleドライブで起きる情報漏えいの大半は、サービス側の問題ではありません。利用者の共有設定に起因するものです。本記事では、どこに本当のリスクがあるのかを切り分けたうえで、管理者が打つべき対策を具体的に整理します。

セキュリティを論じるときは、守る主体を分けて考える必要があります。サービス提供者が担う部分と、利用する企業が担う部分は別物です。
Google側は、保存されているデータと通信経路の暗号化、マルウェアの検出、大規模なデータセンターの物理的な保護、そして国際的なセキュリティ認証の取得といった対策を講じています。この領域について、自社でサーバーを運用するより弱くなるという心配はほとんど不要でしょう。
問題は利用者側です。誰にどこまで見せるかという設定は、企業が自分で決めなければなりません。クラウドの事故は、破られて起きるより、開けたまま忘れて起きるケースが目立ちます。危険かどうかを議論する前に、この構造を押さえておくことが出発点になります。

ファイルを共有する場面では、相手に見えないという問い合わせを避けたい気持ちから、つい緩い設定を選んでしまうことがあります。
Googleドライブの共有には、大きく分けて二つの方法があります。特定の相手を指定して権限を与える方法と、リンクを知っている人なら誰でも開ける状態にする方法です。後者は手軽ですが、そのリンクが転送されれば範囲は際限なく広がります。
| 共有の状態 | アクセスできる範囲 | 危険度 |
|---|---|---|
| 制限付き | 個別に追加された人のみ | 低い。既定はこの状態が望ましい |
| 組織内でリンクを知っている全員 | 自社のアカウントを持つ人すべて | 中程度。社外には出ないが社内全員に見える |
| リンクを知っている全員 | URLを入手した誰でも | 高い。転送や検索エンジンの経路で外部へ広がる恐れがある |
三つ目を選んだファイルは、社外の相手にリンクを送った時点で、その先の転送までは制御できなくなります。取引先の担当者が善意で社内へ共有した結果、想定外の範囲に届くこともあります。

対策を考えるには、何がどう漏れるのかを具体的に把握しておくと役立ちます。経路はある程度限られます。
多いのが、共有範囲の設定ミスです。急いで広い設定を選び、そのまま忘れてしまうケースで、悪意ではなく手順の問題といえます。注意喚起よりも、設定による制限のほうが効果的です。
次に多いのが、共有相手の誤りです。同姓の社員や、似たアドレスの社外の相手を選んでしまうケースで、入力補完の候補を確認せずに確定してしまうことが原因になります。
三つ目が、退職時の持ち出しです。個人のアカウントへ共有する、大量にダウンロードする、同期した端末をそのまま持ち帰るといった行為で、いずれも監査ログで検知できます。ただし、ログを確認する仕組みがなければ気づきにくくなります。
| 経路 | 起きる原因 | 効果的な対策 |
|---|---|---|
| 共有範囲の設定ミス | 急いで広い設定を選んでしまう | 管理コンソールで既定を制限する |
| 共有相手の誤り | 入力補完の候補を確認せず確定する | 社外への共有時に警告を表示する |
| 退職時の持ち出し | 抑止する仕組みがない | 監査ログの確認を手順に組み込む |
| 認証情報の流出 | 使い回したパスワードが漏れる | 2段階認証を必須にする |
四つの経路のうち、上の二つは設定で大きく減らせます。人の注意力を前提にした対策から、設定による制限へ重心を移すことが効果的です。

誰が見られるかと同じくらい重要なのが、その人に何をさせるかという設定です。閲覧だけなのか、編集や再共有まで許すのかで結果は変わります。
編集者の権限を与えた相手は、そのファイルをさらに他の人へ共有できます。つまり共有範囲の管理権が、自分の手を離れるということです。社外の相手に編集権限を渡す場面では、この点を意識しておきたいところです。
なお、閲覧者に対してダウンロードや印刷、コピーを制限するオプションも用意されています。完全な防御にはなりませんが、無意識の持ち出しを抑える効果はあります。機密性の高い資料には設定しておく価値があるでしょう。

個人のGoogleアカウントで業務ファイルをやり取りしている状態は、セキュリティの観点では管理が行き届きにくいといえます。
無料アカウントには、管理者という概念がありません。誰がどのファイルを社外へ共有したかを会社が把握する手段はなく、退職した社員のアカウントに残ったファイルを回収することもできません。監査を求められたときに提示できる記録がない、という状況になりかねません。
業務で使うのであれば、法人向けのGoogle Workspaceへの移行が前提になります。移行することで、上の三点は解消できます。

利用者への注意喚起だけでは限界があります。設定で対応できる部分は、設定で解決しておくと確実です。
| 対策 | 設定する内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 外部共有の制御 | 社外への共有を禁止するか、許可するドメインを限定する | 意図しない社外流出を根本から防ぐ |
| 共有時の警告表示 | 社外へ共有する操作の際に確認画面を表示する | 禁止までは難しい組織でも、誤操作を減らせる |
| 2段階認証の強制 | 組織部門ごとに必須化する | パスワード流出時の不正ログインを抑止する |
| 監査ログの確認 | ドライブの操作履歴を定期的に点検する | 大量ダウンロードなどの異常を早期に検知する |
| データ損失防止のルール | 特定の情報を含むファイルの共有を検知して制御する | 個人情報や機密文書の外部共有を自動で止める |
最初の一手として効果が大きいのは、外部共有を許可ドメインの限定に切り替えることです。取引のある企業のドメインを登録しておけば、業務は回りつつ、無関係な宛先への共有は塞げます。全面禁止は現場の反発を招きやすいため、この中間の設定から始めるのが現実的でしょう。
アクセス権の設計を丁寧に行っても、認証情報が漏れると効果が薄れます。二段階認証は、パスワードが流出した場合の備えになります。
推奨するだけでは、有効にする社員は限られがちです。管理コンソールから組織部門ごとに必須化し、猶予期間を設けたうえで全社へ適用する方法が確実です。段階的に進める場合は、侵害されたときの影響が大きい管理者権限のアカウントから先に必須化するとよいでしょう。
認証の手段にも差があります。確認コードを受け取る方式より、専用のアプリやセキュリティキーを使う方式のほうが安全性は高くなります。通信経路を経由して届くコードは、手の込んだ攻撃に対して万全ではありません。重要な権限を持つアカウントほど、強い方式を選んでおくと安心です。
Googleドライブは、どの端末からでもアクセスできる点が利点であり、同時にリスクでもあります。管理コンソールのモバイル管理機能を使えば、業務データにアクセスできる端末に条件を課せます。
たとえば、画面ロックが設定されていない端末からのアクセスを拒否する、端末の紛失時に業務データだけを遠隔で消去する、といった制御です。個人所有の端末を業務に使っている組織では、業務データの領域だけを対象にする方式が現実的でしょう。

一度にすべてを締めると、業務に支障が出て現場の反発を招きかねません。効果の大きい順に、段階を踏んで進めるとよいでしょう。
第一段階は、無料アカウントでの業務利用をやめることです。管理者が存在しない環境では、以降の対策を打つ土台が整いません。
第二段階は、外部共有の制御と2段階認証の必須化です。どちらも設定を変えるだけで効果が出ます。外部共有はいきなり禁止せず、警告の表示から始め、状況を見て許可ドメインの限定へ進めるとよいでしょう。
第三段階が、共有ドライブへの移行と棚卸しの制度化です。ここからは運用の話になり、現場の協力が要ります。時間はかかりますが、長期的な効果はもっとも大きい部分です。
| 段階 | 実施する内容 | 必要な期間の目安 |
|---|---|---|
| 第一段階 | 法人向けの環境へ移行し、管理者を置く | 数週間から数カ月 |
| 第二段階 | 外部共有の制御、2段階認証の必須化 | 数日から数週間 |
| 第三段階 | 共有ドライブへの移行、棚卸しの制度化 | 数カ月 |
| 第四段階 | アクセス制御の強化、データ損失防止の導入 | 要件により変動 |
第四段階まで進む必要があるかどうかは、業種と扱う情報の性質によります。すべての企業が最高水準を目指す必要はありません。自社にとって失われて困る情報は何かを定め、そこから逆算して水準を決めるとよいでしょう。

個人のマイドライブに置かれたファイルは、その人の持ち物として扱われます。組織の資産である文書が個人に紐づいている状態は、見直しておきたいところです。
共有ドライブに置いたファイルは、所有者が個人ではなく組織になります。作成した社員が退職しても、ファイルはそのまま残り、権限も維持されます。引き継ぎの際に「あの資料が見つからない」という事態を避けられます。
権限はメンバー単位で管理でき、管理者、コンテンツ管理者、投稿者、コメント投稿者、閲覧者の五つの役割から割り当てられます。異動があってもメンバーの入れ替えだけで済むため、個別のファイル共有を追いかける必要がなくなります。
共有ドライブへ移行する際は、先に権限の設計を決めてください。既存のマイドライブから機械的に移すと、必要のない人まで閲覧できる状態になります。移行は部署単位で段階的に進めることをおすすめします。
容量の観点でも共有ドライブは有利です。個人の割当ではなく組織の総量から消費されるため、特定の社員だけが容量を使い切るという問題も起きにくくなります。

Google Workspaceの標準機能でも相当の統制は効きますが、業種や規模によってはさらに踏み込んだ制御が求められます。
たとえば、社外のネットワークからのアクセスを制限したい、端末の状態に応じて可否を判断したいといった要件です。サテライトオフィスのシングルサインオン for Google Workspaceは、ネットワークIPやブラウザ、MACアドレス単位でのログイン制御に対応し、メンバー単位や組織単位で異なるポリシーを設定できます。
ゼロトラストの考え方で環境全体を設計するなら、Chrome Enterprise Premiumという選択肢もあります。既存のChromeブラウザを活かして低コストに導入でき、データ損失防止やマルウェア対策、デバイスの検証といった機能を備えています。サテライトオフィスはゼロトラスト導入支援も行っており、生成AIへの機密情報の入力をリアルタイムに制御するといった提案も行っています。
詳しくはサテライトオフィスのChrome Enterprise Premium(Googleゼロトラスト)導入支援から詳細をご確認ください。

ここ数年で、情報が社外へ出る経路がひとつ増えました。生成AIのサービスへ業務文書を貼り付けるという行為です。
Googleドライブに保管されている資料を要約したい、翻訳したい、体裁を整えたい。こうした目的で、社員が文書の内容を無料のAIサービスへ入力する場面が現実に起きています。ファイルの共有設定をどれだけ厳格にしても、中身を手作業でコピーされては防げません。
禁止するだけでは解決しにくい面があります。業務効率が上がる手段を封じると、把握できないところで使われることにもなりかねません。組織として安全に使える環境を用意したうえで、外部のサービスへの入力を制限するという順序が現実的でしょう。
サテライトオフィスの法人向けAIであるサテライトAIは、質問内容をAIに学習させない設定、利用ユーザーの限定、禁止ワードの設定、個人情報のマスキング、ログの保存、SSOとの連携といった機能を備えています。オンプレミスや自社のクラウド環境に構築するクローズドな構成も提供されています。
技術的な制御を加えるなら、 Chrome Enterprise Premiumのデータ損失防止機能で、生成AIへの機密情報の入力や社外でのGoogleドライブのダウンロードをリアルタイムに検知して遮断する構成も選べます。

Googleドライブのセキュリティは、サービスの安全性ではなく、設定と運用で決まります。危険かどうかを議論するより、設定を点検するほうが早く前に進めます。
まず外部共有の方針を決め、共有ドライブへ業務ファイルを移し、監査ログを見る習慣をつける。この三つが土台になります。そのうえで、業種の要件に応じてアクセス制御を強化していく順序が現実的でしょう。
サテライトオフィスはGoogle Cloudプレミアパートナーとして、Google Workspaceの導入から運用、セキュリティ設計までをワンストップで支援しています。5,000社以上の導入実績で得た知見をもとに、自社開発のセキュリティ関連アドオンも含めてご提案が可能です。
共有設定の見直しやセキュリティ強化をご検討でしたら、サテライトオフィスまでお気軽にご相談ください。
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